6人以下の室内楽曲

«クォーク - インテルメッツィ III»
(2010) for Percussion solo

委嘱:吉原すみれ
初演:2010年11月25日 吉原すみれパーカッションリサイタル
東京文化会館小ホール
演奏時間:13分

楽器リスト:

ダブル・バズ・ボウ1(なるべく低いもの)、ダブル・バズ・ボウ2(ダブル・バズ・ボウはhttp://www.schwirrholz-schwirrbogen.de/schwirrbogen2.htmlで購入可)、スプリング・ドラム(ワワ機能とハンドルのあるもの)、ホース (今回は洗濯機のもので)、6個以上の異なるピッチのリン(なるべく高音)、タムタム、ティンパニ、大太鼓、スポンジ上に平置にした4ゴングあるいは皿上の任意の金属楽器(2つは中サイズ、直径35cm程度で、壁付きのものをひっくり返し、壁上をバチのスティック部分で叩く/擦る。1つは壁5cmくらい、もう1つは1cmくらい。もう2つは、直径15cmほどの小サイズ)。

 *ダブル・バズ・ボウ1、スプリングドラム、口笛、ホースと、最初のリンは、同じ倍音構造グループ(もしくは四分音程度のずれ以内)に属するように調整する。


すべての物事は、誰の目にも明らかなかたちで現れる前に、まず何らかのエネルギーとして、この世に生み出されるのだと思います。目には見えないそう した力(期待、意志、欲望、好意、風力、電力…)が、その波動によって別のエネルギーを引き寄せ、それらが共振してより大きなエネルギーとなり、さらに別のエネルギーを引き寄せ…、このプロセスを繰り返しながら、次第に目に見える現実として形作られてゆくのでしょう。

クォークとは、そのような目に見える現象の構成要素となるエネルギーの種のようなものであり、どのような「現実」に形を現すのかまだわからないエネルギーの原始的ありようが、 はっきりした音程を持たない打楽器の音響のそれと似ているように思えて、この作品のタイトルとしました。

冒頭、原始的なゴムのうなり音や、 楽器の摩擦音の中から時折姿を現す倍音音列が、無秩序とその中から出現する秩序という、異種の、しかし同根の原初的音響エネルギーとして提示されます。それらは、次第に他の発音体に伝播しながら、異なる音響世界を作り出してゆくのですが、そうしたさまざまな響きとその触感、それに伴う身振り(回す、擦る、 叩く)の連なりが、全体としてどんな音の像に結ばれていくのか。それは、「断章形式で書き連ねることで、あいだに隠されたつながりが次第に浮き彫りにされる」と述べたフランスの思想家、ロラン・バルト(Roland Barthes1915-1980)の思考に触発された、私の作品シリーズ《インテルメッツィ》(間奏曲集)の、最大の興味でもあります。

望月 京