6人以下の室内楽曲

«Brains»
(2016-17) for string quartet

Brains (2016-17)
委嘱:ラジオ・フランス
初演:2017年2月13日、ディオティマ弦楽四重奏団 プレザンス音楽祭、ラジオ・フランス
出版:Breitkopf & Härtel
演奏時間:10分

何が人を、「その人」たらしめるのか?
この問いに関する考察の音楽化第一作目として《Brains》(脳[複数形])は作曲されました。
曲の発想源となっているのは、脳の研究者、池谷裕二氏との対談(『kotoba』2016年冬号、集英社)や、氏の著書を通して学んだ、ヒトの脳の持つ数々の特徴です。
池谷氏によれば、脳の中に、リズムに反応する脳回路はもともと備わっており、リズムがどんな音楽にも共通する要素である以上、人間と音楽とは不可分であるとのこと。言語も音楽から生まれたという学説すらあるそうで、では逆に、言語によって考察された脳(ないしは心)の働きを、音楽に置き換えてみたら…という発想に基づき、今後、脳のさまざまな特徴を順次音楽化し、複数の曲から成るシリーズ作品にしたいと思っています。

《Brains》では、脳の自発性と学習法を主題としてとりあげました。脳が使う全エネルギーの90%以上は自発活動に消費されており、その活動は無秩序ではなく、外部刺激によって特定のパターンに固定されるとのこと。この脳の自発性が、コンピュータとの大きな違いで、それにより脳は指令がなくとも自ら学習し、知識や記憶を書き換え、時には勝手にそれらを補填・捏造したりもするのだとか。そうした、いわば「創造的学習」と、ミラーニューロンがもたらす「模倣的学習」(他者の動作や行動を真似ることで、自分の知識や経験の幅を広げてゆく)によって、社会性や、自分が何者であるかを探求する姿勢などの「人間らしさ」が育まれていくようです。

曲の中では、冒頭、第2ヴァイオリンが提示する「脳の自発活動の定型パターン」としての音型を、第1ヴァイオリン、ヴィオラがそれぞれの適性(音域、速度)に合わせて模倣しながら変化させてゆきます(「記憶の書き換え」、「他者とは異なる『自分』の追求」)。模倣や、他者への共感を苦手とする(ミラーニューロンの機能障害が原因とする説もある)自閉症のチェロが、独自のパターンを展開しながら加担することで、音楽にまた別の変化がもたらされます。

望月 京