管弦楽曲

«カメラ・ルシダ»
(1999)

3 (2.picc, 3.B-fl). 3 (3.Eh). 3 (2. Es-cl, 3.Bass cl). 3 (3.C-bsn). / 4.3.3.1. / Pf / Hp / 4 Perc. / 14.12.10.8.6.
  
委嘱:南西ドイツ放送局 (SWR)
 初演:1999年10月17日 ドナウエッシンゲン音楽祭
 シルヴァン・カンブルラン指揮/南西ドイツ放送交響楽団
 演奏時間:20分
 出版:Breitkopf & Härtel
 
 
 第10回芥川作曲賞受賞作品 (2000)
 

 この作品は、前作《La chambre claire – 明るい部屋》(1998)に続いて、写真の世界から主要な作曲上のアイディアを得ています。撮影によって永久に再生/保存される一瞬の風景、光の動きや投 影の変化によってゆらめくパノラマといった写真の本質や、「カメラ・ルシダ」と呼ばれた、写真機発明以前の「写生機」のしくみ −2つのレンズのうち1つは被写体をとらえ、プリズムを通してもう1つのレンズが紙の上に写生するというもの− を音楽に置き換え、いわば「音楽上のヴァーチャルな写生機」を作り上げてみたいというのが作曲の出発点となったアイディアでした。
 私の「カメラ・ルシダ」は、レンズの1つはオーケストラに、もう1つのレンズは五線紙に向けられ、レンズの大きさやピント、シャッタースピード、フレーミングなどを様々な組み合わせで変化させながらその音風景を描き出していきます。言い換えれば、目前のひとつの風景を、あたかも角度や撮影技術を変えながら 連続写真におさめていくかのように、テンポや、スポットの当て方、フレーミングなどを違えて写し出す部分(特定の楽器群、音色、フレーズ、リズムなど)を変化させつつ繰り返すことにより、一度とらえた音響を構成しなおしていくわけです。

 こうした手法は、60年代のポップアート、特にアンディ・ウォーホルの、肖像写真の連続コピーの作品シリーズに見られる、同一モデルの拡大/縮小や、連続印刷による色彩の微妙な変化に執着する美学とも結び付けられるかもしれません。そうした視覚の上での繰り返しを聴覚上の記憶に訴えるものとするために、私の作品では短いフレーズや特徴的な音響、その拡大/縮小型や、響きのフィルタリングのプロセスなどがループ状に繰り返されます。
 このような、時間の経過にそった音楽的パラメータの変遷とその知覚についての考察が、現在の私の創作上の中心的テーマのひとつとなっています。

 望月 京


カメラ・ルシダ