管弦楽曲

«オメガ・プロジェクト»
(2002)

2 (picc, A-fl, B-fl). 1.Eh. 2 (Es-cl, Bass cl). 2.C-bsn / 4.2.2.1. / 4 Perc. / Pf / Hp / 12.12.10.8.6.
 委嘱:サントリー音楽財団
 初演:2002年8月25日 サントリーホール
 小松一彦指揮/新日本フィルハーモニー
 演奏時間:15分
 出版:Breitkopf & Härtel
 

 フランスの神学者ピエール・テイヤール・ド・シャルダン( P. Teilhard de Chardin 1887-1955 )は、その著作の中で、人類進化の究極点を「オメガ点( point omega)」と名付け、その目標点にキリストをおいています。それは、ひとりの人間が一生をかけて学び遂げられなかったものを、輪廻回生をくりかえし ながら学び続けて人類が最後にたどりつく到達点ですが、その道程には、多くの人の一生の到達点としての「オメガ点」が、同時にさらなる進化をめざして再生する新たなサイクル(生涯)の始点として数多く秘められていると考えることができると思います。
オメガ・プロジェクトとは、そのような各人の小さな進化の流れの数々が、合流に合流をかさねて作り出していく、より大きな進化の流れを指していますが、それは、神と人間、生と死、地球と宇宙、見かけと真実、といった、一方が他方にひそんでいながら、両者は互いに絶対的未知の関係にあるようなふたつの世界の 間をつなぐ橋であるとも言えるでしょう。私は、自分自身のそうした進化を願いながら、作品自体も構造の中に大小さまざまなオメガ点を秘めた、暗喩的な祈りの音楽を書きたいと思いました。オメガ(Ω、ω)というギリシャ文字最後のアルファベットの形がはからずも示唆するように、それは、音楽の生命エネルギーが、無限の時間、無限の空間につながる開口部(沈黙)を伴って、ひとつの到達点から新たな進化をめざして再生をくりかえす過程でもあります。
各再生サイクルの初めに、チャイムや鐘を思わせるような音響(とそのヴァリエーション)が鳴らされますが、それはフランス東部の都市ストラスブールの大聖堂の中にある、人の一生を模したからくり時計の、生の始まりと終わりに天使が鳴らすゴングからアイディアがとられています。
 
望月 京