(2007) for symphonic orchestra
2.2.2.1(c-bsn)./4.2.2.0./4Perc./ Pf /14.12.10.8.6.
委嘱:サントリー音楽財団
初演:2007年10月2日 サントリーホール 「作曲家の個展」
指揮:ヨハネス・カリツケ 東京都交響楽団
演奏時間: 14分
出版社: Breitkopf & Härtel
インスラ・オヤ(Insula Oya)は、フランス西部ヴァンデ地方に属する、現在ではユ島(l’île d’Yeu)と呼ばれる小さな島の古称です。3〜4億年前に出現し、氷河期末期から人が住んでいたとされるこの島には、先史時代の墳墓や巨石が今も数多く残され、手つかずの自然が作り出す、どこか現実離れした荒々しくも物哀しい風景は、「世界の果て」といった昔の人々の概念や、虚無感、孤独を彷彿させます。
この世のものとは思われない不思議な色の雲がたちこめた夕暮れ時、果てしなく広がる枯れ葉色の草原と切り立つ岩の上を海鳥だけがそぞろ歩く、そんな荒涼とした岬の断崖に不意に現れる大きな鉄製の十字架。眼下の海で失われた多くの命、様々な民族や海賊によって絶え間なく侵攻され続けてきた島の歴史、それらを呑み込んでひっそりと佇むロマネスクの古城。めくるめく膨大な時間と人の営みとを吸収して存在している圧倒的な静けさの中に身を置き、時折響き渡る波の音と海鳥の鋭い声に意識を預けていると、人間を超えるとてつもなく大きな存在、八百の神の前に頭をたれるような気持ちに、ほとんど泣き出したくなる感動を覚えます。L’île d’Yeuという現在の呼称は、発音を同じくするL’île Dieu(神の島)を思わせ、またYeuは「目」を意味する「yeux」という単語を想起させることから、とりわけ「神」に見守られているような気配を強く感じるのかもしれません。
曲は、そうしたユ島の情景を描写するものではありませんが、 島の持つさまざまな地形的・歴史的要素が、音楽の中に、時代や場所を超えてあらゆる人間に受け継がれる原始性を取り戻したいと考える私の現在の指向と呼応 するように思われ、その古称をタイトルにとりあげました。
望月 京