管弦楽曲

«ホメオボックス»
(2001) for Vn, Pf and orchestra

Soli : Vn. Pf   2 (1.picc, 2. A-fl). 2 (2.Eh). 3 (2. Es-cl).2. / 4.3.2.1./ 5 Perc. / Hp / 12.10.8.6.4.
委嘱:第18回ベルリンビエンナーレ
初演:2001年3月15日 コンツェルトハウス、ベルリン(第18回ベルリンビエンナーレ) ベルンハルト・ヴァンバッハ (ピアノ)
ジョージ・ヴァン・ダム (ヴァイオリン)
ローランド・クルーティヒ指揮/ユンゲ・ドイチュ・フィルハーモニー
演奏時間:18分
出版:Breitkopf & Härtel

「ホメオボックス(相同遺伝子群)」とは、地球上の生物が種(しゅ)を超えて受け継いでいる共通世襲遺伝子グループのことです。全種共通の祖先と考えられる地球上最古の生物から、長い時間をかけて蓄積された遺伝情報伝達のエラーが、今日、各生物の大きな見かけ上の違いを生み出していますが、 DNAレベルでは、たとえば、蠅と人間との間では、実に80%もの遺伝子コードが共通である、と言われています。
 
私の「ホメオボックス」は、この自然界の事実の音楽的アナロジーで、冒頭、「舞台上の全生物共通の祖先」として、単純な、しかし特徴あるリズムと音色がギロなどの打楽器で提示されます。そのリズムや音色を、あたかも遺伝子が自己複製を繰り返すように、「共通遺伝情報」として繰り返し演奏しながら徐々により多くの楽器へと伝達してゆくのですが、その過程で、情報は常に正確に繰り返されるのではなく、実際の生物における遺伝情報の伝達と同様、時には一部が欠落したり、変化したり、あるいは伝達されなかったり、更にはそうした変化や欠落による新たな情報が元来の情報と同時に伝えられていったりします。これらの 「音楽的突然変異」が、曲の進展を導きます。
ソリストはオーケストラ全体を支配するのではなく、そのような「共通世襲遺伝子」(音型、リズム、特殊な音色、奏法などを含む)を持つ全体 ("スーパーファミリー")の中の一員として、オーケストラの楽器と共にかわるがわる、ある時は能動的に、ある時は受動的に、音楽を動かす曲の内部の論理を確立したり、軌道から外れたりしながら、それぞれの生命活動を展開します。

 望月 京